【乙武先生が、始業式で児童と対面】
ベストセラー「五体不満足」の著者で、今月から東京都杉並区の任期付き教員になった乙武洋匡さん(30)が5日、配属先の区立杉並第四小学校(同区高円寺北2丁目)の始業式で子どもたちと対面した。 始業式では、宮山延敬(のぶたか)校長が乙武さんら新任の先生を紹介。乙武さんが「皆さんに手伝ってもらうこともあるかと思いますが、一緒にいろいろな思い出をつくっていきましょう」と笑顔で抱負を述べると、子どもたちは大きな拍手で迎えた。
乙武さんは当面は担任を持たず、5、6年生の授業で複数の教師が指導をする「チームティーチング」に加わる。道徳の授業や特別活動では、全学年を対象にする。 乙武さんは「子どもたちが発するSOSを受けとめたい」と一昨年から大学の通信課程で学び、教員免許を取得。今春、任期付き教員制度を導入した同区が1日付、原則3年の任期で採用した。 (07/4/5 朝日新聞)*******************************
私には、これまで写真だけで一目ぼれをしてしまった男がふたりいる。
一人は勿論Gackt。但し、彼の場合はほれたのが顔よりもエステの宣伝で惜しげもなくさらした美しい裸体だったから、心底その顔を気に入ってしまったのはたった一人になるだろうか。正確に言えば、”顔立ち”ではなく顔を大層好きになったのが乙武洋匡さん、その人である。
今でも忘れもしない平成11年3月8日号の週刊「AERA」の表紙になった顔である。駅の売店で見かけた表紙の彼の顔が、あまりにも素晴らしく”良い顔”だったので思わず魅入ってしまったのだった。それは、写真家の腕以上に彼の中にあるなにかが、自然ににじみでてまれなる良い顔にしていると直感した。その時には、後に空前のベストセラーになった彼の著書が評判になっていたとは知らず、芸能人とも思われず、サッカー選手にも見えない、20歳そこそこで「AERA」の表紙に抜擢される彼は、なにをしている青年なのだろうと強い印象を残した。
その後彼の本を読み、彼の育った環境や考えを知り、度々マスコミに登場して活躍する姿を見るにつけ、これまでブログで彼のことにふれる気持ちはいっさいなかった。それが、私流の良い顔にほれた男性への礼儀だったのだが。
その乙武さんが、教師になるという。
そのニュースに接して、なんとなく気になっていた。不図、今朝も彼のことが頭にうかんだところ、新聞のめったに観ないテレビ番組表の「いつみても波乱万丈」で彼の名前を発見する。
久しぶりの乙武さんの会話は、あいかわらず楽しくてうまい。トークの達人と言ってもよいくらい、何度も笑わせてくれ、そして考えさせてくれた。
彼の著書が空前のベストセラーになったのは、彼のご両親の教育や彼の内面の魅力もさることながら、ルックスがよく、話もうまく、そしてやはり早稲田大学在学という三拍子そろっていたことにもあると思う。美談だけではなく、人をひきつけるキャラが人気の秘訣だ。
番組中印象に残ったのが、小学校時代のある担任教師が校内で車椅子を使用することを禁止したエピソードだ。真冬の校庭で車椅子なしで立つ彼をあまりにも気の毒に感じた他の教師の助言に耳を貸さず、「今彼を可愛がることよりも、彼の将来を考えるべきだ」と厳しく接したという。お尻が冷たくつらかったそうだが、その恩師の教えにより彼は肉体を鍛えられ階段を登るようになったそうだ。彼の小学校で使用した机は、使い勝手を考えて特別大きく、さらに鉛筆が落ちないように周囲が少し高くなっている。それは彼を甘やかすことなく、けれども思いやりの満ちた机である。
また高校受験を控え、合否もわからないうちから高校の目の前のマンションを購入したり、わんぱくな彼を謙虚に育てるよりも本来の我を強く自由にふるまわせる選択をしたご両親の話、中学校時代バスケットボールに入部してドリブルを練習して試合に出場したエピソード。キューバーの偉大な野球選手に接して、自分はこうあるべき人間から逃げていたと考え始めたこと、楽しい話題の中に真摯な生き方をのぞかせる乙武さんは、やはり私がほれるのも当然の青年だったことに安堵した。彼を美化する気持ちはない。話ぶりや視線から、意外なほどきかん気な部分や弱くもろいところもあるごく普通の青年ぶりものぞく。それでも、彼は魅力的な人間だ。
周囲の人々に恵まれたのも彼の努力に負うところもあるだろう、大学時代、突然自分がこの世に生まれた意味を考えバリフリーの活動をはじめ、誰もが卒業後は福祉関係の仕事に従事するだろうという予測をうらぎるスポーツライターの道を選び、そして今教師への転進。
杉並区が教師としての活動でぶつかるであろう困難を、100リストにあげて解決方法をともに模索して採用した彼への期待は大きい。今後は、マスコミに登場する機会はへるだろう。だからこれまで封印していた乙武さんを語りたい。
なにをするにも”「五体不満足」の”という冠がついて語られる(上の朝日新聞の見出しもそうだったのだが省略)彼が、その冠の重さに負けずに彼にしかできない仕事をやり遂げていただきたい。この春に新しい生活を迎える方にエールを贈りたい。