千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
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2008.05.19 Monday

『太陽の雫』

しゃいん12歳ひとりの少年が、生まれ育った村を後にブタペストに向かっている。19世紀も終わる頃のことである。彼は非業な事故で亡くなった父のかわりに母や弟たちを養うために村を出たのだ。しかし彼のこころは、父の遺品である秘伝の薬草のレシピを記されたノートを胸に、生まれたての朝露のように瑞々しく希望に輝いていた。少年の名前は、エマヌエル・ゾネンシャイン。その一族の印である名前には、日の光、太陽、喜びという意味がこめられていた。
やがて少年は、醸造所で勤勉に働き、結婚もして25歳で独立。父の秘伝レシピで”サンシャインの味”と名づけた薬草酒を製造して一代で財をなした。
長男イグナツ(レイフ・ファインズ)、次男グスタフにも恵まれ、また亡き弟の遺児である娘ヴァレリー(ジェニファー・エール)をひきとり、厳しくも愛情深く育てたのだった。やがて物静かなイグナツは法律家、闊達なグスタフは医学を修め、美しい娘に成長したヴァレリーは発明された写真に熱中するのだったが・・・。

これは、大河小説のような壮大な映画の物語の序章のほんのさわり。主役演じるレイフ・ファインズが、判事として皇帝とオーストリア=ハンガリー帝国に忠誠を誓い、自分を捨ててまで腐敗した体制よりの厳しい判決を行い、出世の階段を登って行くのだが、肝心な妻の愛を失うイグナツ、そしてイグナツの次男アダム、そのアダムの息子イヴァンと3代に渡ってなんと3役を演じきった、オーストリア=ハンガリー二重帝国時代の君主政治から共産主義、第二次世界大戦や1956年のハンガリー動乱という激動の時代をこえたユダヤ人のゾネンシャイン一族の一大叙事詩の映画である。
ハンガリーの歴史に翻弄される一族にユダヤ人を設定したことにより、民族の中の人種、ユダヤ人の悲劇、自らのアイデンティティや誇り、個人の成功と失墜、という幾重にも折り重なった人間性のひだが、激動の時代を背景に映画に奥行きと深みを与えている。



太陽フェンシングで頭角を現し、ユダヤ人である差別をのりこえて同化して、ベルリン・オリンピックでハンガリー代表選手として祖国に金メダルをもたらし、一躍国民的英雄として喝采をあびたアダムだったのだが、結局独裁政治の広告塔に利用され、戦争がはじまったらユダヤ人であるという理由だけでゲットーに強制送還される。おりしも北京オリンピックの開幕もせまっているのだが、現代でも、共産主義国にあっては、世界大会でのスポーツでの成果は国威掲揚をもたらし、またそれに貢献した選手は広告塔に利用されることではかわらないのではないか。

父アダムを目の前で拷問されて亡くしたイヴァンは、戦後は共産党に入党して、とりつかれたようにファシスト狩りを行う。彼の厳しい追及の成果を認められ、若くして少佐に登用されるが、実はなんの罪もない父のような上司であるクノール(ウィリアム・ハート)を追求する役割を言い渡される。とうとう良心にさなまれ、警察をやめる決意をし、その後民主化運動に身を投じることになる。

なんと言っても、3役を演じたレイフ・ファインズの演技力が映画の成果におおいに貢献している。顔立ち、姿勢、体格、どれも風格がありながら、繊細な神経で一途な魂にふさわしい。そして魅了されるのが、若き日のヴァレリーを演じたジェニファー・エールの柔和で幸福な笑顔である。唯一、残念なのが、英語圏の英国人によるハンガリー映画の印象がして、ここはハンガリー語を聞きたかった。また冒頭の最初の5分だけで、お金をかけた丁寧な映画つくりに感心する。映画の中のハンガリーの風景は、どこをきりとっても、どこまでも、泰西名画のように美しい。法律家のイグナツが皇帝の謁見する場面、アダムがフェンシングの試合をする会場や練習場、3人の男たちが夢中になる女性と密会するカフェ、、、つくづくヨーロッパ、ハンガリーの至宝のような美しさに何度もため息がでる。贅沢三昧の王室がもたらした大衆への貧困は、罪であろう。それにも関わらず、”美”という遺産は残した。
またイグナツとグスタフ兄弟の妹ヴァレリーが、扇の要のような存在になっている。彼女は、事実そのままを写真に残している。そこには、男達がめざす出世への欲望も復讐も野心も憎しみもない。ただ、ただ、あるがままの肖像である。歴史の波にのみこまれても、自己に忠実に、自分を裏切ることもなく見失うこともなく生きた彼女は、だから人生は美しいのだ。大切なのは、秘伝のレシピよりも、そこに生きてきた人生である。
181分間、ハンガリーの歩みをともにたどりながら、あっというまの100年だった。

監督:イシュトヴァン・サボー
制作: ハンガリー、カナダ、ドイツ、オーストリア (1999年)


■こんなアーカイヴも
・映画『ハンガリアン』
・ハンガリー人のおおいなる夢の実現
・映画『コンフィデンス 信頼』監督:イシュトヴァン・サボー
JUGEMテーマ:映画



2013.12.15 Sunday

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