千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
旧館の「千の天使がバスケットボールする」http://blog.goo.ne.jp/konstanze/

<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

<< 「モーツァルトが求め続けた『脳内物質』」須藤伝悦著 | TOP | 『太陽の雫』 >>

2013.12.15 Sunday

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


| - | - | -
2008.05.17 Saturday

『譜めくりの女』

ふピアニストが観てはならないのがこの映画。と言ってしまうと大げさかもしれないが、このとってもよくできたポスターをご覧になったら、ある程度音楽の知識のある方は、なんとなく鋭い音感でふたりの関係が想像つくだろうか。同じ黒い色のドレスを着た世代は違えどそれぞれ魅力的な女性たちは、”美人ピアニストによるデュオ”ではない。フランスの人気ピアニストと”譜めくりの女”である。ピアニストの黒は、華やかに音楽を盛り立てるためのドレスであり、彼女のために楽譜をめくる女性のドレスの黒は、めだたず邪魔にならず、その存在するできれば消したいための色である。
彼女達の視線が示すとおり、妙齢の女性がピアニストのアリアーヌ(カトリーヌ・フロ)で、暗くミステリアスな若い女性が楽譜をめくるために雇われたメラニー(デボラ・フランソワ)。
(以下、内容にふれております。)

メラニーは、ピアニストになることを夢見る少女。肉屋を経営する両親の期待のもと、コンセルヴァトワールの入学試験を受けるまでになったが、あるちょっとしたことをきっかけに動揺して実技試験に失敗した。彼女は、ピアノの蓋に鍵をかけて、ピアニストになる夢を封印したのだった。歳月が過ぎ、メラニーは短大を卒業して高名な弁護士ジャン・フシェクールの事務所に採用され働くようになる。ジャンが息子トリスタンの世話をする女性を探していると聞き、自らその役を申し出る。ジャンの妻は、あの時の実技試験の審査委員長であり、メラニーの憧れのピアニスト、アリアーヌだったのだから。。。


ふめ音楽に心理劇を融合させたサスペンス映画となるが、冒頭のメラニーの父親が仕事で豚肉の塊を切る場面から、入学試験への繋がりがうまく、いやがおうでも緊張感が高まる。この映画は、恐怖よりも、むしろ実技試験を受ける緊張、プレッシャーからくる緊張感に、観客も一緒になって我々一般人が我が身にも覚えのあるハラハラやドキドキをいやでも掘り起こされる再現ドラマである。だから、ピアニストは、観ていても寿命が縮まるだろう。
たった1回の受験の失敗でピアニストをあきらめる少女メラニーの心理や、あのくらいで動揺するようでは所詮ピアニストは無理、そもそも恨みの矛先を間違えていないか、という疑問が、展開していく意外なふたりの関係に思わず目が点となり、それもフランス風と解釈できなくもない。
室内楽でピアノを弾くためには、譜めくりをする方が欠かせない。あの譜めくりも、タイミングをあわせるのがけっこう難しいらしい。抜群のタイミングでそっと楽譜をめくる音楽知識や経験も要求され、できれば大柄でなく小柄でめだたない方という体格の注文から、決してとなりで観客のように音楽を体で聴いてしまってはいけないなどなど。ピアニストは神経質で繊細だからね・・・。
ピアニストが主役で、本来補佐役の譜めくりなのに、繊細な音楽家としての神経をもったアリアーヌは、理想的な譜めくりをしてくれるメラニーに依存していき、彼女がいないと演奏ができなくなり、やがては支配されていく。以前の私だったら、そんなことありえない、と一笑に付しただろうが、青柳いづみ子さんの「ボクたちクラシックつながり」を読むと、ピアニストになるのはとってもとっても大変なのに、ピアニストになれてももっと別な意味でもとってもとっても大変なのがわかるから、アリアーヌの”あがる”現象や、メラニーに翻弄されていくのも、痛々しく同情できる。だから、ピアニストが観たらその痛さがつらいと察せられる。
アリアーヌの弁護士である夫と可愛い息子と住む郊外の邸宅が、本作品でも見どころである。広い緑の芝生。英国ほどクラシック過ぎず、米国流の成金趣味でもなく、イタリアほど甘いセンスに走らない、シックで洗練されたインテリア。その瀟洒で夢のような屋敷の女主人は、アリアーヌ。けれども、その資産のすべては、弁護士である夫のもの。離婚されたら、彼女は息子をおいて、身ひとつで出て行かなければならない。妻の演奏の出来栄えを鋭く批評する夫は、彼女にとっては一番厳しい判定士である。地位も名声を手に入れ、すべてのピアニストを夢みる少女の”生活と人生”を手にいれていても、そこにあるのは人知れず孤独を抱えているゆるやかに老いに向かっている女性の姿だ。
夫が、ピアニストという肩書きや才能がなくとも彼女を愛しているのなら、もっと多くの友人に恵まれていたら、アリアーヌはメラニーの罠に落ちることはなかっただろう、というのが私の感想。メラニー役は『ある子ども』で注目をあびたデボラ・フランソワだが、すっかり成熟して綺麗だが近寄りがたいミステリアスの役を好演。

京都にも半年間滞在していた経験もあるヴィオラ奏者で音楽大学の教授でもある監督のドゥニ・デルクール。多くを語らず、静かで余韻があり、観客に余白を書いてうめることを求める作品は、一昨年のカンヌ国際映画祭でも評価が高かったそうだ。
でも、やっぱりピアニストにはお薦めできないのだが・・・。

監督・脚本:ドゥニ・デルクール
2006年フランス制作

JUGEMテーマ:映画



2013.12.15 Sunday

スポンサーサイト


16:46 | - | - | -

コメント

コメントする









この記事のトラックバックURL

http://konstanze466.jugem.jp/trackback/224

トラックバック

譜めくりの女
 『あなたがいないと、だめになる』  コチラの「譜めくりの女」は、夢を絶たれた少女がその原因を作った女性への執念深い復讐を描いた4/19公開のサスペンス映画なのですが、観て来ちゃいましたぁ〜♪  主演は、「地上5センチの恋心」のカトリーヌ・フロ、「ある
(☆彡映画鑑賞日記☆彡 2008/06/05 7:46 PM)
映画『譜めくりの女』を観て
41.譜めくりの女■原題:LaTourneuseDePages■製作年・国:2006年、フランス■上映時間:85分■鑑賞日:4月20日、シネ・アミューズ・イースト(渋谷)■公式HP:ここをクリックしてください□監督・脚本:ドゥニ・デルクール□脚本協力:ジャック・ソティ□製
(KINTYRE’SDIARY 2008/06/07 10:57 PM)
【2008-148】譜めくりの女
人気ブログランキングの順位は? あなたがいないと、だめになる
(ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! 2008/06/30 12:58 AM)
『譜めくりの女』
※映画の核に触れる部分もあります。カンの鋭い人はご注意を。 ※ 鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。 (原題:La tourneuse de pages) ----『譜めくりの女』って変なタイトル。 しかも“女”っていうのもイヤな響き。 いったい、ど
(ラムの大通り 2008/07/01 12:01 AM)
『譜めくりの女』 (2006) / フランス
原題:LATOURNEUSEDEPAGES監督・脚本:ドゥニ・デルクール出演:カトリーヌ・フロ、デボラ・フランソワ、パスカル・グレゴリー、アントワーヌ・マルティンシウ、クロティルド・モレ、グザヴィエ・ドゥ・ギルボン、ジャック・ボナフェ鑑賞劇場 : シネ・アミューズ イ
(NiceOne!! 2008/07/01 2:56 AM)
譜めくりの女
無表情でやる復讐 【Story】 かつてピアニストを目指す少女だったメラニー(デボラ・フランソワ)は、ピアノの実技試験中、審査員の人気ピ...
(Memoirs_of_dai 2008/08/06 7:22 AM)
譜めくりの女
“歩”をめくって“と金”になり、縦横無尽に相手の家族をかき乱す・・・
(ネタバレ映画館 2008/09/12 2:46 AM)
「譜めくりの女」
物静かな少女メラニーの夢はピアニストになること。その実現に、並々ならぬ情熱を注いできた 彼女だったが、コンセルヴァトワールの入学試験で、審査員を務める人気ピアニスト、アリアーヌ (カトリーヌ・フロ)の無神経な態度に心を乱され、散々な結果に。これによって
(心の栄養♪映画と英語のジョーク 2008/11/03 7:26 AM)
譜めくりの女
2006 フランス 洋画 ドラマ ミステリー・サスペンス 作品のイメージ:怖い、ためにな
(あず沙の映画レビュー・ノート 2009/01/31 4:59 PM)
『譜めくりの女』'06・仏
あらすじかつてピアニストを目指す少女だったメラニー(デボラ・フランソワ)は、ピアノの実技試験中審査員の人気ピアニスト、アリアーヌ(カトリーヌ・フロ)の無神経な態度に動揺してミスを犯し、ピアニストの夢を絶たれる。その後、アリアーヌに再会したメラニーは演
(虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ 2009/11/15 10:21 AM)
『譜めくりの女』
ピアニストは“譜めくり”に全ての身を預ける。 果てしなく無防備なまでに。 そして“譜めくり”はそんなピアニストの心を操る。 それは過去の日の復讐の旋律・・。 『譜めくりの女』 La Tourneuse de Pages 2006年/フランス/85min 監督・脚本:ドゥニ・デ
(シネマな時間に考察を。 2010/04/03 10:01 PM)

▲top