クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録
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2008.05.14 Wednesday
モーツァルトの音楽が聴いていると、病気の症状がやわらいだ、学力が向上したなどと、様々な”モーツァルト効果”が一部喧伝させているが、おおかたの人は商業主義にのせられないよう、これらの似非科学に耳を傾けることがないだろう。実際、科学的に納得いく根拠がないことから、専門家でも真偽がわかれているそうだが、著者はこれまでの説を大胆にひるがえし、様々な状況からモーツァルトはドーパミン欠乏によるてんかん症を患っていて、自らの病を癒すために無意識のうちに”心地よい音”を求めて作曲していたのではないか、という結論に至った。
分子量153の小さな化学物質のドーパミンは、運動・学習、情動などの高次脳機能を調節する神経伝達物質で、別名”快感物質”ともよばれ創造性をつくる鍵を握っているともいえる。
今日残っている資料から、あきらかにモーツァルトは決して健康ではなかったとは多くの人が感じるだろうが、著者の”診断”によると、モーツァルトは少年時代からてんかん症を患い、後に統合失調症を併発したと推察している。著者はピアノ好きの共同研究者が、モーツァルトの音楽を弾いている時、飼っているラットがおとなしくなるという話から、「喜遊曲」などあかるく美しい旋律のモーツァルトの音楽を2時間ほど自然発症高血圧ラットに聞かせる実験を行い、その結果、カルシウムやドーパミンが18%も増えたということだ。これは音楽によって血液中のカルシウムが増加し、その増加したカルシウムがドーパミンの合成を高めて血圧を下げるという治療効果につながったと分析される。しかし、「美しい音楽」という抽象的な理由ではなく、さらに一定の高周波数領域の音がドーパミン合成を促す効果をもつこともつきとめた。
音楽好きだったら納得されるだろうが、モーツァルトの音楽は他の作曲家よりも高い周波数領域で、透明感溢れる純粋なゆらぎの効果がふくまれている。モーツァルトは、物理学者の小柴昌俊さんのおっしゃるように間違いなくアインシュタインよりも天才だ。しかし、彼はドーパミンが減少する病のために少年の頃から苦しみ、その病を癒すために美しい曲に中に、ドーパミンを増やしてくれる高音域という音符を豊富に取り入れ、数多の名曲が後世の我々の心も癒してくれるようになった。逆転の発想が斬新であり、その研究報告も世界的に評価されつつある。
私たちの脳には、数百億以上の神経細胞があり、感情や行動のあらゆる生命現象を調節している。その活発な活動の主役が神経伝達物質である。恋愛感情、怒りや感動など、あらゆる精神活動や心の現象も、いつか、単純な化学反応の結果として現われる現象と物質レベルで語られる時代がくるであろう。この化学反応のわずかな差が、その人の個性として成り立つという考え方には、私もおおいに共感する。また著者によると、モーツァルトの後期の音楽には、てんかん症から統合失調症を併発した影響があらわれているということだ。その分析がたとえ的外れだとしても、私はあかるいのに哀しみの感じられるモーツァルトの音楽にいつもなぐさめられ、間違いなくこころを清められてきた。
先日観た映画『ラフマニノフ』でも、ノイローゼになって鬱状態になったラフマニノフが、精神科医の心理療法を受ける場面があったが、様々な精神疾患に悩んでいた作曲家が驚くほど多いそうだ。チャイコフスフキーも12回にもわたる鬱病期を経過したという研究論文が残っているのだが、それによると内因性鬱病の患者は、『悲愴』を聴くと病状が悪化したという報告もある。モーツァルトだけでなく、音楽にはまだまだ未知の脳の働きとの関連性や影響、効果がありそうだ。
若い人を対象に書かれた本書は、わかりやすく広範囲に音楽と脳細胞の関連が書かれている。生物や音楽の知識がなくても、関心さえあれば一読に値する。そして、一般読者対象に広く読まれるであろう本書に、具体的病名を挙げることを検討し、たまたまそうした病にめぐり合ってしまった方には、凡人にはない感性を大切にしほしいという著者の願いで結ばれている。
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モオツァルトは小林秀雄さんの書かれた評論が好きで何回も読みました。文学ではない音楽という点でモーツァルト、モーツァルト以前の音楽はすばらしいです。
ラフマニノフはロマン派最高峰という言い方をしていたと思います。感情の動きを音楽に置換しているのですね。