千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
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2013.12.15 Sunday

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2008.05.11 Sunday

「アムステルダム」イアン・マキューアン著

が最盛期には発行部数200万部を誇っていた雑誌「フォーカス」が、廃刊されてから7年たつ。モラルを疑う取材と、そもそも疑う以前に品格のない過激な写真への世間の批判が、最終的に10万部という落ち込みの数字にあらわれ、廃刊の原因とされた。

気温マイナス11度のロンドンの教会で、46歳で社交界の花だったモリーの葬儀が行われた。
かわいそうなモリー。
レストラン評論家で先端をいくガーデニスト、ファッショナブルな才人にして写真家だったモリーにふさわしく、かっての恋人たちが葬儀に出席した。英国を代表する作曲家のクライヴ、高級新聞紙の編集長のヴァーノン、そして絞首刑をひそかに支持している時期首相候補とまで言われている外務大臣のガーモニー。やがて、地位と名声をのぼりつめた彼らは、モリーの残したスキャンダラスな1枚の写真から、思わぬ道に転げ落ちていく。

映画『つぐない』があまりにも素晴らしかったので、興味をもったイアン・マキューアンのブッカー賞受賞作。映画の終盤で、最後の作家として成功した老いたブライオニーを観て、この作家は映画に見られるようなロマンティストではなく、辛辣で怜悧な作家だと感じたのだが、全く私の印象どおり。芸術、マスコミ(しかも新聞の「タイム」と思われる)、政治、と高尚な職業、或いは現代社会を動かす頂点にたつ彼らは、いずれも知の代表であるべきなのに、その内面は驚くほど平凡でとりようによってはむしろ低俗。スキャンダラスな写真を見て、人格というものが氷山のように大部分が隠れていて、水面に見えている世間的自我は冷たくとりすましたもの、というクライヴの感想に、作家の自虐的で残酷な趣味に自分自身すらも告発された感すらする。凡人で知性などもちあわせていない私だが、薄汚れたクライヴもヴァーノンすらも、もしかしたら自分の陰画かもしれないとおびえてくる。完全にピュアな人間など存在しない。その意識下のかくされた人の本心がきわどい暴露雑誌の売上に貢献したことを認めつつも、それでもこうありたいという理性がまさると考えたいではないか。そんな東洋の慎ましく能面のような表情の女性を鼻であしらうかのように、作家は知を武器にせまってくる。
そして、彼らの運命は、当然の報いかのように過酷な結末を迎える。葬儀ではじまり、「アムステルダム」での終焉。そのファンファーレは、おそろしくも笑えるくらいに諧謔的だ。年寄りの始末を金で解決してくれるという合理的な安楽死法という表現に、私も思わず老後は「アムステルダム」へと言ってしまいそうだ!これまでも、カンバリズムや小児性愛を書いてきたというイアン・マキューアンの辞書には、評判どおりに禁句の文字はない。気取ったセレブから、警察にかけこみ愚にもつかないトラブルを訴える貧困層まで、人の底に見える軽薄さと穢れを冷静に表現した英国の作家は、映画監督のミヒャエル・ハネケにも通じるひんやりとした肌ざわりが通好みだおと言えよう。ブラック・ユーモアで味付けされた文章にも関わらず、全体を通して洗練さを感じさせられるのが、怜悧な知性の証明でもある。

真贋のほどはともかくとして、うんざりするくらいSPMのTBがブログに届く昨今。また画質は荒くとも無法地帯のように妖しげな動画がおかれているサイト。
IT革命によって「フォーカス」よりももっと速く、もっと刺激的に、もっと扇情的にフリーでアクセスできる今、「どのように聖人ぶっていても、一枚めくれば金、女。それが人間」とのたまった「週刊新潮」の天皇とあがめられ、「FOCUS」を創設した斎藤十一氏だったら、本書にどのような感想をもたれるのか。
小児科医として活躍し、危機に落ちた夫のスキャンダルを鮮やかににきりかえしたミセズ・ガーモニーによると「愛は悪意よりも強い」らしい。

JUGEMテーマ:読書



2013.12.15 Sunday

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