千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
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2008.04.22 Tuesday

『つぐない』

つぐ予告編ですっかりその映像に魅せられて、指おり数えて公開を待っていた映画『つぐない』。
それは、期待以上の極上の恋愛映画だった。

1935年の夏の盛り、英国の田園地帯にある政府官僚の屋敷。ケンブリッジ大学を卒業して帰省したセシーリア(キーラ・ナイトレイ)は、退屈と焦燥の日々を送っていた。しかし彼女はいらだちの原因が、幼なじみで一緒にケンブリッジ大学に進学した使用人の聡明な息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)の存在にあることに気がついていない。「住んでいる世界が違う」そのひと言で、ロビーを意識のすみに追いやるセシーリア。大学時代も自分の友達を彼から遠ざけ、今夜のディナーにロビーを招待したことに不快に反対するセシーリア。
13歳の妹ブライオニーは、作家志望の多感な少女。帰省してくる兄と友人を歓待するための戯曲の執筆に余念がない。そして窓から、姉とロビーの意地の張り合いから生じたささいな誤解が招いた事件を偶然目撃してしまうのだが・・・。(以下、内容にふれています。)

私は最高の恋愛ものは、やはり「ロミオとジュリエット」だと思う。以前もブログに書いたが、シュークスピアのこの劇においては観客は、幕開けとともにコーラスの語りによって若い恋人の運命を事前に知らされることで、運命に抗う人間の哀しみの痛みに共感を覚え、また同時にいわば高所から知的にその恋の行方を眺めることになる。本作品もあらゆるメディアを通じて、宣伝と批評によってセシーリアとロビーの運命の悲劇をそこはかとなくに知らされているようなものだ。それにも関わらず、最後まで恋愛映画を堪能した満足感は、ジョー・ライト監督や出演者をはじめ、スタッフの力の幸運な集大成であろう。何しろ、映像、美術、演出、斬新な音楽、俳優たちとすべてにおいて非のうちどころがないくらい完璧なのだから。


つぐない冒頭のブライオニーの広い屋敷を早足で歩く足音、蜂の音がかもしだす夏の盛りのけだるい空気、彼女の汗ばんでほのかに上気した頬、そのひとつひとつが濃密な物語の時間をねりあげていく過程にまず驚嘆させられる。そして最も印象的な噴水での場面。最初に屋敷の窓からのブライオニーの視点とともに観ると、確かに観客も一種の誤解を生む。そして時間をさかのぼり、その後にあらためて客観的な視点で見せられるセシーリアとロビーの真相。ここで、我々自身も誤解と思い込みの可能性をとりこまれていく。このように様々な手法で、時間の視点を過去に戻して再現する映像が、斬新でまた意味があり、最後の最後まで凝ったつくりとなっている。
ところで、この場面での濡れた下着で体のラインがあらわになったセシーリアとロビンが一瞬見つめあう映像は、大変魅力的で素敵である。そしてセシーリア役のキーラ・ナイトレイについ魅了されてしまう清潔なエロティシズムがある。
私はこの映画において、キャスティングは重要だと思う。この印象深い場面で、ハリウッド映画が好みそうなスカーレット・ヨハンセン並のセックス・アイコン的豊満ボディをもってきたらどうであろう。やはりここはスレンダーなキーラ・ナイトレイの体が芯の強い清楚さで、その後のロビーがいとおしむように噴水の池の水面をそっとなでるシーンにうまくつながっていると感じる。キーラ・ナイトレイは、最初は、セシーリアではなく本来の主役であるブライオニー役を監督から期待されたのだが、彼女の希望でセシーリア役を演じることに変更された。もしキーラがブライオニーを演じていたら、もっと「贖罪」のテーマに比重がかかり、人間の罪と罰にかかる内面の苦悩とゆるしの問いが心に残ったかもしれないが、美しいセシーリアをヒロインにおくことによって上質の女性好みの恋愛映画の傑作となった。当初は、キーラにつりあわないと思えたロビー役のジェームズ・マカヴォイだったのだが、彼以外のキャスティングはありえないくらい適役。(日本人で言ったら、『眉山』の青年医師役を演じた山本耕司さんに似ている。)この1作で彼は、トップクラスに登ったと言ってもよいだろう。


つぐ3気持ちがいき違って、それぞれの感情を抱えて自室に戻ったふたり。身分の違いと男と女の違いが感じられるふたりの部屋。
ロビーは、誤解と非礼をわびる手紙をタイプライターで綴り始める。切々と恋心を歌いあげるオペラのアリアのレコードをくりかえしかけながら。気持ちをはりつめて、何度も何度も書き直しをするロビー。そんなロビーの映像と、ディナーのために美しく装い物憂げに煙草を吸いながら鏡に向かうセシーリアの映像が交互に流れる。やがてセシーリアを想いながら詫びの手紙を書くうちに、ロビーの表情と心は彼女を恋する感情と人を恋する幸福感がゆるやかに溢れていく。あまりにもこの映像の素晴らしさに感動して、映画館の暗闇で私はこの場面だけを何度も繰り返して観たいと願った。セシーリアのシルクの上品なドレスの深い翠色にすいこまれるように、久しぶりに純粋に恋愛映画を堪能した。今年は、もうこれ以上の恋愛映画には出逢えないのではないか。

・・・そしてつのる想いが書かせた物語の鍵を握るいたずらめいた妄想の秘密の手紙。
『チャタレー夫人の恋人裁判』の時代背景からすると、あの手紙の内容はとんでもなく”猥褻”である。ここで、あえて”猥褻”という言葉を使用したが、私はむしろ”あれ”は、恋する男性の願望の本音であり、恋愛の本質でもあると思う。だから、拒絶せずに手紙を受け入れて涙を流すセシーリアが高貴で美しい。

成長したブライオニーがセシーリアとロビーに再会する場面では、ロビーの厳しい口調だけでなく時系列でも違和感が残ったのだが、その理由が最後にあかされて映画に深みを与えた。
「つぐなう」ためには、つぐなう対象の存在が必要だ。ゆるされるためにも、ゆるしをこう相手がいる。空想の再会をボーナストラックのように用意することで、果たして罪はつぐなえるのだろうか。原作者のイアン・マキューアンは、これまでショッキングな題材を冷徹な手法で描く作家という評判らしいが、一生「つぐない」の重みを背負う老いたブライオニーに作家自身の投影を見る。

ジョー・ライト監督
制作:2007年イギリス映画


■これもすごく好きな映画のアーカイブ
・『プライドと偏見』
JUGEMテーマ:映画



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22:36 | - | - | -

コメント

TBありがとうございます。
最初にブライオニーの視点で窓ガラス越しに見た噴水のシーンを後で客観的な視点から見た時、何かが少しづつ、緊迫感を増しながら間違った方向に進んでいく怖さを感じました。
同じ出来事でも、視点や見る人の心情によっても違ったものに見えてしまうことありますもんね。
思った以上に見ごたえのある、心に残る作品でした。
2008/04/29 10:27 PM by ryoko
>ryokoさまへ

緊迫感を盛り上げたのも、タイプライターの音をとりこんだ音楽も効果的だったと思います。
映画では、ブライオニーの思い違いとされていますが、早熟で作家志望の彼女は、図書室での行為の意味を本当はわかっていたのではないかと思っています。

期待を上回る作品で私も満足しました。^^
2008/04/29 10:36 PM by 樹衣子*店主
TBありがとうございました。
13歳の少女がついた嘘、しかし、初恋の
人でありお姉さんを強姦していたと錯覚が
嘘を引き起こしたのかもしれませんね。
その嘘で引き裂かれ、結ばれなかった二人。
ブライオニーの最後のつぐないは、
許されたのでしょうか?
嫉妬はときに真実を曲げてしまうのかもしれませんね。

今度、訪れた際には、
【評価ポイント】〜と
ブログの記事の最後に、☆5つがあり
クリックすることで5段階評価ができます。
もし、見た映画があったらぽちっとお願いします!!
2008/10/26 4:12 AM by シムウナ
>シムウナさまへ

コメントをありがとうございます。

>嫉妬はときに真実を曲げてしまうのかもしれませんね

全くその通りですね。
感情の嵐の中で、人は事実と真実を見抜く力が損なわれる時があります。同じことでも、好感のもてる方はよい方に解釈して、嫌いな方だと不快に感じる経験は、誰もがあるのではないでしょうか。
それから、私はあまり★の数で映画の評価をしないので、ご依頼に応えることができません。申し訳ございません。
2008/10/28 9:51 PM by 樹衣子
TBありがとう。
映像の作り方が、隅々まで、気を使って制作されていますね。
とても、高度なキャスト&スタッフの仕事となっています。
2009/02/22 12:27 AM by kimion20002000
kimionさまへ

こちらのブログはすっかり放置したままで返信遅くなり申し訳ございません。
あの若さでキーラ・ナイトレイの存在感は素敵です。

>高度なキャスト&スタッフの仕事

そのオシゴトもハリウッド映画とは一味違うところが、英国流の気品でしょう。

2009/02/28 7:47 PM by 樹衣子

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