千の天使がバスケットボールする

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2013.12.15 Sunday

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2008.02.16 Saturday

「アフター・アメリカ」渡辺靖著

あ本の表紙にある米国映画でよく見かける住宅街の写真が印象的な本書は、気鋭の文化人類学者の渡辺靖氏の業績が高く評価されたきっかけになった1冊でもある。著者は、米国北東部ニュー・イングランドの都市ボストンにおける対象的なふたつの階層、アングロ・サクソン系プロテスタタント系の上流・中上流階級のボストン・ブラーミン、そしてアイルランド系カトリックの下流・中下流階層の家族(ボストン・アイリッシュ)を13家族の22人にインタビュー形式の3年間に渡るフールドワークを重ねてまとめた論文を、一般人向けに起こしたものである。

ところで、『モナリザ・スマイル』という女性向けの素晴らしい映画がある。
この映画の舞台は、1953年の名門女子大学、ウェルズリー大学である。優秀な彼女達は、アカデミックな教育を受けて知性的で優れた頭脳をもちながらも、大学からも両親からも望まれることは、能力を生かした職業をえることではなく、自分とつりあうハーバード大学の学生から在学中に婚約指輪をもらうことだった。そんな保守的な大学にやってきたのが、美術教師のキャサリン。美しく知性的で自由な精神をもつ彼女は、優等生の女学生たちに「自分で考えることの大切さ」を教えていくのだったが、それは保守的な学校に波紋をまきおこすことにもなった。。。
米国初の女性大統領が期待される”あの”ヒラリーがウェルズリー大学に入学する1世代前は、名門といっても花嫁修業の授業もあったりとその保守的な校風に驚いたりもしたが、印象に残ったのが当時の女子大生たちの行動様式である。彼女たちは、一様に裕福な良家の子女で将来の設計も、親も学校も望んでいるハーバード大学の学生たちと交際して在学中に婚約、そして結婚して専業主婦になることだった。本書を読んで、彼女たちと彼女たちの恋人たちが典型的なボストン・ブラーミンの階級出身であることに気がついた。

本書の構成は、このようなボストン・ブラーミンのクラス、ボストン・ブラーミンらしさの栄華が残っていた世代のインタビューから始まり、次に対象的なアイルランド系家族の話といった著者の繊細な感受性が感じられる前半と、学術的な論文の後半という全く異なるふたつの形式に成っている。
累進課税、遺産の相続人の増加、社会やこどもたちの意識の変容によってボストン・ブラーミンは、少しずつ資産が減っていき、ハーバード大学に学力不足で入れないこどもたち、異なる宗教、異なる人種の配偶者の一族への仲間入りと、骨董品や美術品などの離散していく資産と同様に一族も紐帯を失いつつる。
ピラミッドの平坦化現象が起こっている。この文脈は、特権が入りずらくなった民主化のプロセスと平等主義というアメリカン・ドリームへの流れである。だから、ボストン・ブラーミンと対象的な地域に根ざし、家族主義的で学歴もなく単純作業の仕事に従事していたボストン・アイリッシュたちも、子ども達の世代になると大学卒業証書を手に入れるや希望の仕事を求めて全米に散っていき、教育費を考慮して避妊をして少子化がすすみ、中流の家庭を営むようになった。こうした上昇移動は、自由で豊かな生活をもたらすものの、厳しい競争社会にさらされ人間としての素養よりもいっそビジネスライクな関係におきかえられる。

このような現象は、米国のみならず日本でも同じように私には思える。ボストン・アイリッシュの家族主義やコミュニティは、日本のムラ社会にも通じるところがある。また出自ではなく功績、市民権という概念、平等の権利による新しい社会は、消費社会・市場主義社会のうねりとともに逆に個人の願望に基づく多様な家族を生み出した。
それでは、文化人類学者である著者のフィールドワークが何故アメリカなのか。
ヨーロッパの産物である「近代」の理念の未来が、未完の米国だからだ。しかもその試みが、きわめて実験的であるから、著者もそして我々も「アメリカのなかにアメリカ以上のものを見出す」ことを求めてひかれているのかもしれない。
最後に、この素敵な表紙の写真は、著者である渡辺靖氏自身が撮影したものである。

■渡辺靖氏の次のフィールドワークの成果
・「アメリカン・コミュニティ


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