千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
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2013.12.15 Sunday

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2008.01.20 Sunday

『レンブラントの夜警』

れんエルミタージュ美術館の254室は、「レンブラントの間」と呼ばれている。部屋に入って真っ先に招かれるのが、1636年に制作された「ダナエ」である。
レンブラントが描く前にも、後世に名声を残す画家のモチーフに何度もとりあげられた神話の「ダナエ」。しかし、これまでの画家がダナエを、その表情、肌の色、姿勢、肉体のラインを現実感の伴わない彫刻のように完璧に描いていることに比較して、彼は生身の自然な人間らしさを描いている。あまりにも複雑で、心理的、奥の深い彼の絵画は、同時代の人々には理解できなかった。愛妻のサスキアの死後制作された「ダナエ」には、当時の画家と世間の対立がしのばれる。
昨秋、4日間通ったエルミタージュ美術館でもっとも感銘を受けた画家は、レンブラント・ファン・レイン(Rembrand van Rijn)だった。それでは、私はレンブラントを好きだったのだろうか。あの最も有名な「夜警」の不気味さと緊迫感が恐ろしく、嫌いな画家だった。けれども、彼抜きには近代絵画を語れないのだ。
『レンブラントの夜警』は、美術学校出身の画家でもあるピーター・グリーナウェイ監督が、筆のタッチ、色、即興性など後期印象派にも影響を与えたオランダ絵画を代表するレンブラントの名画「夜警」にまつわる謎と波乱に富んだ半生に、監督自身の考察を描いた”物語”である。

粉屋の息子、レンブラントは30代で肖像画家として大成功した。1634年にマネージャーとして有能なサスキアと”逆玉婚”をして、社会的な地位、名声、富、ひとり息子ももうけ、ゆるぎない地位と栄華を築いた。そこへまいこんだのが、アムステルダムの市警団からの集団肖像画の依頼である。当時、集団の肖像を描く場合は、依頼主の賃金にみあうように平等に並べて顔と姿を描くことは、ビジネスの常識だった。これまでも、依頼主の隠された内面を描いてしまったために訴訟騒ぎを起こしていた彼にとって、ただ顔を並べるだけの集団肖像画は、気がすすまない。しかし、生まれてくるこどもの経済的安定のため、と愛妻に説得されて筆をすすめるレンブラント。その愛妻も産後の肥立ちが悪く亡くなり、絵画が完成した1642年を境に、レンブラントは一転、転落の人生を歩んでいく。いったい画家に何があったのか。そしてこの名作「夜警」にこめられた謎とは。。。



れん2グリーナウェイ監督は、独創的な監督である。当時のオランダや画家レンブラントの人生と人間性をあまさず研究して、そのうえに「夜警」に独自の解釈をほどこした冴えも見せつけてくれる。彼の頭の中にある名画の50以上もの謎が、パズルのピースのように組み合わせて描かれたもうひとつの名作”レンブラントの夜警”に、私は心底感嘆とさせられた。冒頭から、弱視だった右目を終生気に病んでいたレンブラントの悪夢が、臨場感をもってせまってくるかと思うと、暗闇を背景にして、召使によって次々と開けられる窓から溢れる光を受け、レンブラントの色の解釈がはじまる最初の場面。高い寝台から転げ落ち、太って醜い裸体をさらして弱々しく泣くレンブラントの痛ましくも孤独な魂。このあたりの前衛劇のような舞台的な趣向は、知的に富んで一瞬も気が許されない。
名誉市民である依頼主に、罵声を浴びせ、陰謀、性的虐待、殺人を次々と汚い言葉で告発していくレンブラント像に、最初は違和感すら感じたが、欧州初の共和国の女性は男性と対等な関係だったことを考えると、博愛主義者でフツーのオジサンという監督の考える巨匠の人間性もまっとうかもしれない。だからこそ、妻を失った後に悲しみをまぎらわせるかのように召使との偽りの性的探求にはしり、最後に20歳も年下の若い召使と生涯をともにしたのだろう。

レンブラント役のマーティン・フリーマンの舞台人のようなセリフ回しと演技、「夜警」の中の登場人物を次々と暗闇からひきづりだすかのようなジョバンニ・ソリマの音楽。素数のように完璧な構図が光によって浮かび、また闇に沈んでいく映像の美しさ。ただただ、監督の刺激的な挑発のわなにはまっていく。「夜警」の中で画家自身を除いて、私達をまっすぐに見つめている人物がいる。審美家でもあった作家のヤコブ・デ・ロイだ。彼は、最後にレンブラントを告発する。
「お前の絵の中にいるのはすべて俳優。ひとりを除いて。お前自身の自画像だ。これは、本質的に絵ではない。演劇なんだよ!」
映画の中では、野外の劇場で演劇に心を奪われるレンブラントの姿が何度も描かれている。光と闇を駆使して登場人物の内面や関係性まで表現した絵に、監督は映画に近いものを感じている。
「彼が現代に生きていたら、絶対映画監督になっていた」
そう語るグリーナウェイ自身、画家でありながら、映画をつくっている。そんな監督が、映画の最も重要なテーマを質問された時の回答がすこぶる明解だ。

”セックスと死”以外に何があると言うのだろうか
思わずひざをたたいてうなづいてしまった。本作品も私の選択にかなったR−15。



れん2さて、「夜警」に不快感を感じる理由のひとつにあるのが、中央に位置するふたりの少女だ。映画では彼女達にも、監督流のグロテスクでいびつな物語が用意されている。一般的には、この少女の面差しが「女神フローラに変装した妻 サスキアの肖像」に似ているからだろうか、少女=サスキア説が有力だそうが、私の印象は違う。そもそも少女には見えない。脳下垂体に異常がある小人の”老婆”に見える。しかし、彼女こそ「夜警」の精神を象徴していると言われている。
エルミタージュ美術館の「レンブラントの間」で最後に飾られているのは「放蕩息子の帰還」だ。世間の流行の波に背を向けて破産宣告を受け、富も名誉も家族も亡くした晩年のレンブラントの愛と苦悩、そして寛容の感情が、この傑作の筆の息づかいに静かに、そして厳かに溢れている。「夜警」からレンブラントがたどりついた終着駅に、私はしばし時の流れも忘れて佇むばかりだった。


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2013.12.15 Sunday

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コメント

樹衣子さま、こんばんは。映画の紹介ではありましたが「夜警」を見る上で、とても参考になりました。ひときわスポットが当てられた子供ですが、私もずっと老婆に見えていました。私は画家自体の生涯については実はあまり追究しないようにしていますが、その絵を描いた時の画家の状況はやはり知りたいですね。作家(作曲家)の生涯に深入りしないのは子供の頃の体験がそうさせています。シューベルトの「未完成」が大好きだったので彼の伝記何種類かを読んでいくうちに、小間使いに手を出して「梅毒」で亡くなったことを知った時のショックは今でもトラウマ(この言葉は嫌いです)とまではいきませんが、知らない方が幸せということを学んだような気がします。もちろん今では微笑ましい(シューベルトには失礼ですが)事実ですが。
2008/01/20 8:37 PM by calaf
>calafさまへ

この映画を観て、何故自分がエルミタージュ美術館でレンブラントが最も印象が残ったのか、また「夜警」が嫌いだったのか、すごくよくわかったような気がしました。絵画を理解するには、時代背景や画家の人間性や生活も知る必要があると思っています。

それとは別に、作曲家の人間性と作品の乖離には、時々失望されることがありますね。

>小間使いに手を出して「梅毒」で亡くなった

当時の女性の地位とあり方や医学の知識を考えると、格別シューベルトが好色でだらしないわけでもなかったと思いますが、私も初めて「アマデウス」を観た時は、やっぱりショックでしたね。今では、あのような天衣無縫な下品さが、天賦の才能をもってして多くの美しい作品を残したと考えるようになりました。
シューベルトの小間使いは、きっと魅力的な小間使いだったのでしょうね。
それから「題名のない音楽会」のランランは、番組表を見て気がついた時は終わっていました。
2008/01/20 9:39 PM by 樹衣子
こんばんは。
樹衣子さんは音楽ばかりでなく、美術にも造詣が深いのですね。
エルミタージュ美術館へ行かれたとはうらやましいです。
(私も一度は訪れたいと思ってはいるのですが・・・。)
代わりに?ユーロスペースで久しぶりに『エルミタージュ幻想』を鑑賞しました。
グリーナウェイを観て、ソクーロフを数作観るという幸せな1月でありました。
2008/02/05 1:09 AM by かえる
エルミタージュ美術館への訪問は、長年の夢のひとつでしたので達成感がありました。
ほんとーーーっに、広いです。一日観光では、無理ですね。
いつか行かれるとよいですね。

>『エルミタージュ幻想』

おおっ!、あの「ソクーロフと戯れる」企画ですね。
私は、28日に『静かなる一頁』を観てきました。やっぱりソクーロフは、はずせませんよね。
ショスタコービッチのドキュメンタリーも観たかったのですが、日程の都合がつかず残念でした。
それから、実はこれまでも度々かえるさまのブログを訪問していて自宅のPCからTBをしていたんですが、毎回エラーになってしまうのです。そのため、ネット・カフェから近いうちにTB致しますので、返信が遅くなりますことご了承願います。
申し訳ございません。。。
2008/02/05 11:12 PM by 樹衣子

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