千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
旧館の「千の天使がバスケットボールする」http://blog.goo.ne.jp/konstanze/

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2013.12.15 Sunday

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2007.12.02 Sunday

『カフカの城』

城プラハにある「黄金の小道」の22番地は、フランツ・カフカの仕事場だった。今でも観光地として青い壁の小さな住居が残っている。私はカフカを読んだ事がないが、プラハを旅行した時に訪問した不条理な世界観を描いた作家の家が、予想外にちいさく質素な家だった記憶が残っている。ここで執筆された長編小説「城」は、未完のままに終わっている。ある作家が、この入り組んだ道に建つ住居から眺めるプラハ城から、「城」の構想をえたのが街のようすから理解できたと言っていた。そうなのだろうか。

私がカフカの家を訪ねていた頃、ミヒャエル・ハネケ監督が抽象的で難解、映画化は不可能とされた『城』を撮っていたのだ。本を読むてまをはぶき、ここは巨匠に「城」への道をご案内していただこう。


城雪深い中、測量士のK(ウルリヒ・ミューエ)はようやく自分の赴任地である街にたどり着いた。
ところが、寝る宿もなく騒々しい居酒屋の椅子で毛布を被り疲れた体をやすめて仮眠する始末。なにかが変だ。目的地である”城”にはいつまでたってもたどり着けず、またKに対して異邦人を眺めるかのような人々の視線の中で疎外感を感じはじめ、いらだっていくK。この街は、どうやら厳密なヒエラルキーと”城”を頂点とした無数の完全なシステムに支配されているようだった。ふたごのような助手に翻弄され、酒場で働くフリーダ(スザンヌ・ローター)と関係をもち婚約するはめになり、Kは気がつくと絶望的で不条理な雪の世界からぬけられなくなっていった。。。

昨日まで、平凡な一市民だった人が、嵐の雪の中を一軒の居酒屋の扉を開けて中にはいった瞬間に、不条理な世界に迷いこんでしまった。しかも、そこからぬけだせる術が見当たらないゆるやかな恐怖と、うっすらとそれを理解して納得していかざるをえない諦念。原作を読んでいないので比較できないが、ハネケ監督の手腕は、おそらく小説を忠実に再現しているのであろう。ハネケとカフカは、表現の方法と時代が違えども、感性が近いと感じる。まず観客は、最初のKが居酒屋にたどりつき、酒場の店主や客達のやりとりをしている場面で、完全にハネケ・ワールドにとりこまれてしまう。ラジオから流れる安っぽいムード・ミュージックがついたり、消えたりする以外、全編音楽はいっさいない。感受性を音楽に逃がす時間もなく、画面の異様な世界に集中せざるをえない。そして、そんな状況に反して、突然画面が真っ暗になって次の場面にきりかわるのは、『71フラグメンツ』と同じ手法だが、本来ならここで集中力がとぎれるはずなのに、逆に不安な感じになっていく。ものの見事に、ハネケの術中にはまっていく。
オーストリアのチェコこ国境に近い村で、マイナス20度の厳寒の中で撮影されたそうだが、鈍い色の寒々しい室内と対比するかのような白い雪。Kは、城をめざして雪の中をあえぎながら歩くの場面が、同じようにくりかえされる。同じ上着、同じ帽子、同じ風景。まるで、永遠にくりかえし続くかのように。
あたかも現世のここではない別世界にはいりこんでしまったかのように感じてくる。小学校の教室での教師から受ける叱責と辱めを受ける場面、村長の自宅での会話、紳士の館と呼ばれる不思議な酒場、すべての場面が悪夢を見ているのが自分であるかのように一分たりとも気がゆるむことなく、見入ってしまう。しかし、ハネケは観客に”やさしい”監督ではないから、いつもどおりに自分の世界観をひろげて、重い宿題を残して終わる。



そろ物語の深さや解釈は、定番でもよいと考える。不条理の世界は、もう語り尽くされた感があるからだ。
あらゆる局面で常識的で誠実にふりまうKなのだが、なにを言っても、なにを行動しても、周囲の者からルール違反ととられ、厳しい批判と非難をあび、いつまでたっても人間関係を築けない。こんなことは、現実社会や小さな小学校のクラスでも起こりうる。堅牢な組織に対して、個人の善意など通じない。不条理な世界を描いて成功したカナダ映画『CUBE』は作品の質が大変高かったが、ハネケの『城』は原作を忠実に再現し、また独特の映像を残した点を注目すべきだろう。そもそもDVDのタイトルに使われている資料の堆積の映像だけでも充分にインパクトがある。フリーダを初めて抱く酒場の汚い床の感触、城をめざしていく雪を踏む夜の硬い音、教室の隅で震えながらくるまる貧しい毛布の肌触り、現実の世界の確かな感触を映像の力によって再現させるハネケによって、スクリーンの悪夢と現実の境界があやふやになっていく。

映画は原作どおりに、突然未完のままに終わっている。はたして、Kはどこへいるのか。今でも、あの世界で雪の中をさまよっているのではないだろうか、そんな余韻を残して幕が・・・

主役のK役は、『善き人のためのソナタ』でヴィーラー大尉役を演じたウルリッヒ・ミューエが演じている。どんどん窮地に追い込まれて惨めになっていくKに敵った役者だ。

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■アーカイブ
『ピアニスト』
『隠された記憶』
・『71フラグメンツ』


2013.12.15 Sunday

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20:51 | - | - | -

コメント

どうもご訪問ありがとうございました。

あぁ、そうでしたね、ウルリッヒ・ミューエでしたね。
後になって気がつきましたが。(^o^;
そしてプラハを訪れてるんですね、それは良い経験ですよね。

それにしても、この方は個人的に興味を引く監督さんです。
今回のカンヌで新作を披露されたようなので、またそれも見る楽しみが増え 待ち遠しいものです。
こちらもTBさせてもらいますね、よろしくです。
2009/05/23 11:18 PM by Kaz.


新作の「THE WHITE RIBBON」も写真を見ただけで、絶対この映画は映画館で観たいと思いました。
最近の映画は水準が高いがあまり個性がなく、監督の名前を覚えられない中、ハネケは瞬間にすりこまてしまいました。
本当に恐るべし、ハネケです。。。

今年のカンヌ映画祭に出品された監督もいずれも個性があり、楽しみです。明日発表でしたね。

ご訪問ありがとうございました。今後とも宜しくお願いします。
2009/05/24 10:41 AM by 樹衣子

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カフカの「城」
チェコの不条理文学作家、フランツ・カフカの小説を忠実に映像化した「カフカの『城』」(1997年、オーストリア・ドイツ、125分)。監督は国際映画賞で高い評価を受けている現代オーストリアの巨匠、ミヒャエル・ハネケ。物語は測量技師のK(ウルリヒ・ミューエ
(シネマ・ワンダーランド 2008/01/21 12:14 AM)
カフカの「城」
映画デビュー作品から順を追って'''ミヒャエル・ハネケ'''の作品をアップしている訳なんですが、本作は4作目にあたる作品。 これが製作された1997年の同じ年に[http://blogs.yahoo.co.jp/jkz203/41059549.html 『ファニー・ゲーム』
(Kaz.Log Cinema 2009/05/23 11:13 PM)

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