千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  
旧館の「千の天使がバスケットボールする」http://blog.goo.ne.jp/konstanze/

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2007.11.17 Saturday

ゴダール『パッション (Passion)』

mei深い青い空に漂う雲のゆらぎ、監督のゴダール自身がatonと共同開発したハンディ・カメラで撮影した映像が流れる。
この空のすいこまれるような色に、泰西名画を感じているうちにラヴェルのピアノ協奏曲が流れて、映画はレンブラントの「夜警」の撮影現場に入る。
「こんな光ではだめだ」
監督のジョルジーがいらだちながら次々とスタッフに指示を与えていく。
光が消え影が生まれ、また光があたる。平板だった俳優たちによるいわば活人画が、やがて光と影の画家、レンブラントの『夜警』そのものになっていく。厚みと重さのある衣装、疲労の滲む肌と瞳、労働によるごつくてぶあつい手、、、ここで再現される名画の表象の”出来栄え”と映像の見事さに驚嘆した。

おりしもポーランドでは連帯運動が進行しているさなか、スイスの小さな村で、ポーランド人監督による名画の活人画の撮影がはじまったのだが、思うように撮影が進まない。予算は、とっくに超えていた。イタリア人のスポンサーがやってきて、商業的に成功しそうな「物語」を要求するが、監督は受け付けない。次々と配給を断られて、映画製作は窮地に追い込まれていく。その一方で、監督は宿泊するホテルの女主人ハンナと情事を重ね、工場で労働運動をはじめたために解雇されたイザベルを愛しはじめている。このふたりのヒロインの対比が、映画に”物語”をもたらしていく。毛皮を着て厚化粧のブルジョワのハンナ。しかし、夫の経営する工場は従業員とのトラブルが続き、情熱的に愛したかったその夫へ感情は、監督への気持ちへとうつりかわっていく。女として監督の心をつかんで自信に溢れる中年にさしかかるハンナから「あんなやせた女のどこがいいの」と言われる若いイザベルは、まるで少年のような短髪で化粧もせずに朴訥とした口調で女工たちをオルグしていく。対照的なハンナとイザベル。

「失われた中心を求めるために映画をつくる。」
そう劇中でジョルジーに言わせるゴダール監督の映画は、その中心を模索するかのように多くの対比を観客に名画の再現とともに次々提示していく。
アングルの「浴女たち」、ゴヤ「5月3日の銃殺」「裸のマハ」、ドラクロアの「十字軍のコンスタンチノープル入城」」「天使と闘うヤコブ」や、エル・グレコ「受胎告知」。なんと贅沢で美しい映像なのだろう。
描かれる高貴な芸術性にも関わらず、製作する彼らと村の人々は、秋から冬に向かって別れと出会いをくりかえしていく。労働争議で対立する資本家と労働者、夫と妻、男と女、そして選ばれた女と恋を失う女、愚かな彼らによりそう光と影。モーツァルトの音楽が彩どる名画と並行して、登場人物たちがめまぐるしく描く迷画は、混沌としてやがて破綻していく。。。

本作品の魅力は、なんといっても再生された名画によって、映像表現の可能性を示したところにある。そしてまるでその名画からぬけでてきたような俳優たちの表情と肉体、音楽と美術は、西欧の芸術のクオリティと奥行きを感じさせて、くやしいが日本人の舌では味わい尽くせない濃厚な歴史で調理されたソースである。同じく映画人による映画製作への情熱と受難(passion)をオマージュしたフランソワ・トリュフォー監督による『アメリカの夜』を彷彿させるのだが、当時の政治的な解釈が現代では古く感じる印象も否めないが、この作品は監督の意思の現われである娯楽性の欠如が、高い芸術性を死守したとも言える。芸術家の情熱を観るのも受難と敬遠する方は、本作品はむかないだろう。しかし、日々深まる秋にありきたりではない映画を鑑賞したい日本にひっそりと生息するハンナやイザベルたちには、私は自信をもってお薦めできる。

雪の残る冬の森の中で撮影されるワトーの「シテール島への船出」が、寒々しくも古典語の”あはれ”さを感じさせる。だから対立した女たち、ハンナとイザベルはふたりで一台の車にのって、「帰る家」を失ってポーランドに向かうのである。
ちなみに、ゴダール自身を投影したかと思われる監督役は、アンジェイ・ワイダ『大理石の男』で主役を演じたイェジー・ラジヴィオヴィッチ。そしてこの作品でも鮮烈な印象を残すイザベルは、『ピアニスト』のエリカ役を演じたイザベル・ユベールである。

監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール

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2013.12.15 Sunday

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