千の天使がバスケットボールする

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2013.12.15 Sunday

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2007.10.13 Saturday

『エルミタージュ幻想』

エるロシアは、芸術の宝庫ともいえる国である。なかでも、サンクト・ペテルブルグにあるエルミタージュ美術館は、その所蔵する美術品の質の高さだけでなく、絵画だけでも4000点、すべてのコレクションは300万点にものぼる所蔵品数を誇る。この収集癖を熱気の帯びた狂気といわずに、なんとよべばよいのだろう。

1764年、借金のかたにドイツ商人から手に入れた絵画を入手して以来、女帝エカテリーナ2世が自分でも”病に病んだ”というほどの狂気が莫大な遺産を構成の国民に残したエルミタージュ美術館。それから時代をへて、プーチン大統領の出身地でもあるサンクト・ペテルブルグ建都300年祭の記念映画として、アレクサンドル・ソクーロフ監督が、エルミタージュ美術館をセットに90分をワン・カットで撮るという狂気じみた映画を実現したのが、「エルミタージュ幻想」である。

現在に生きる監督(ソクーロフ自身と思われる)がめざめると、そこはエルミタージュ美術館だった。しかし時代は帝政ロシア、これからはじまる舞踏会に招かれた貴族たちが、さんざめきながら豪奢な香りをまきちらして次々と馬車をおりて館内にすいこまれていく。そこに黒いコートを着た背が高く、やせて陰気なフランス人外交官、アストルフ・ド・キュスティーヌ侯爵もやってきて、場違いな雰囲気で佇んでいる。
監督とキュスティーヌは会話を続けながら、美術館の中を彷徨し、過去と現代のロシアの歴史の時間旅行をはじめるのだったが。。。

映画を鑑賞する私たちがロシアにあるヨーロッパをともに体現するキュスティーヌは実在の人物で、将軍だった祖父と外交官の父をフランス革命によって断頭台で処刑され、母も逮捕された貴族である。彼はバルザックからその文才を認められてロシア旅行をすすめられ、3ヶ月過ごしたロシアで出合った専制政治の恐怖から、「1839年のロシア」という本を出版した。当然長らくご当地では発禁本だったこの本が、現代に至るも尚、帝政・社会主義を通じてロシアの専制体質を的確に表現していると高い評価があることから、ソクーロフ監督のこの人物を”起用した”真意を考える。
21世紀のロシアでもまもなく新しい大統領が誕生する予定だが、これまでの道のりと同様、着々と自分の強大な権力を残す構想を実現しているプーチン大統領の”実力”と”行動力”を想像すると、本映画のスポンサーになったのも痛烈な皮肉がこめられた一幅のアンソロジーなるものを感じざるをえない。

次に、監督自身も言っている「実験映画」として90分ワンカットで撮る意図をはかると、スポーツ選手のような記録追求でもなく、ギネスブック記載目的ではないのは自明であるが、”そのため”にふくらむ製作費、2000人あまりのスタッフ、45着のドレスと120着の軍服。またのりこえなければならない技術的な問題をクリアーして、構想から4年の歳月と入念なリハーサルを経て、デジタルビデオ撮影、編集なしの2001年12月23日のたった一日撮影へのこだわりは。
ソクーロフ監督が製作したロストロポーヴィッチ氏のドキュメンタリー映画『人生の祭典』を観て感じたのだが、この監督のドキュメンタリー映画へのアプローチは一般的なストレートでメッセージ性の強い作品よりも、はるかに思索に満ちていて深い。そしてその背景に激動の20世紀とロシアという大国で育った芸術家の歴史観や哲学が伺えるのだが、1951年生まれの監督が、ペレストロイカが推進された87年まですべての作品が政府から公開禁止処分を受けていたという事実も無視できないであろう。ただその表現が、屈折しているので難解な印象も与えてしまう。この映画は、エルミタージュ美術館の芸術品を借景にした壮大なロシアの歴史における過去と現代の対話だ。だから最後の舞踏会でダンスに興じるキュスティーヌは、先に行こうと声をかけるソクーロフに「この先になにがある。私はここに残る。」と誘いを拒絶するのだ。90分ワンカット。それは、ロシアの歴史のはるかな流れを意識させ、また途切れることのない未来を予測させる。あたかも、この国とかってはレニングラードと言われていたサンクトペテルブルグの歴史を見守ってきたネヴァ川の、ゆるぎのない流れのように。

やっぱりサンクトペテルブルグ、エルミタージュ美術館に行こうと思う。病に病んだ女帝が民衆から搾取したおかげによるコレクションに魅入られた私も、少しは病んでもゆるされるだろう。

「まわりは海だ。私たちは永遠に泳ぎ、永遠に生きる。」
日本に生まれた私自身も、今ここで生きている意味を探しに行こう。

監督:アレクサンドル・ソクーロフ
原題:Russian Ark(ロシアの方舟)


2013.12.15 Sunday

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