クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録
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2007.09.24 Monday
残暑もうっすら遠のき、この素晴らしき初秋の3連休、私は殆どひきこもり状態に近かった。
手抜きの炊事・洗濯・買物・掃除らしきものをして、ネットで旅行の下調べや、DVDで映画鑑賞(18禁映画だと思い込んで借りた「二十四時間の情事」など)をしつつ、没頭したのが桐野夏生さんの著書「メタボラ」。この3日間、私は主人公のウチナーの磯村ギンジが憑依したかのような状態になり、沖縄と柏崎を漂白したような気分だ。
平日勤務している”会社”という社会を構成する一組織から離れ、家族以外の誰とも会わなかった、事実上、社会から切り離されたたった3日間だけで、桐野ワールドに毒された私の感想は、正直”きつかった”につきる。弁当工場にパート勤務する主婦たちが猟奇的な犯行に走る「OUT」、名門女子高の階級社会から転落して娼婦となり渋谷で殺される姉妹を描いた「グロテスク」。彼女の作品を読むと、神経がすりへって心身が消耗して、どんどん衰弱していく。けっこう、厳しくもつらいところがある。それにも関わらず、いやだから、逆に麻薬に痺れるような快楽を求めて、手をだしてしまうのだろうか。。。
朝日新聞で若者向けに連載された「メタボラ」も、沖縄の密林の中で「僕」はめざめたら記憶を失っていたという「自分探し」のミステリーを装いつつ、何故記憶を失ったのか、「僕」の過去は、「僕」はどこへ向かうのだろうか、と読者の興味を巧みにつかみながら、基地と観光と補助金で暮らす沖縄、一生底辺から這い上がれない派遣労働者、偽装請負、ネットで募る集団自殺、家庭内暴力、という社会の病巣と暗部を鮮やかにうきあがらせて、今回も読者を圧倒させるエネルギッシュにめまいすら感じる。やっぱり、この作家のお姉さまはすごい。そして主人公の「僕」や、記憶を失った彼に”ギンジ”という名前を与えた楽天的な昭光を中心に、登場するリアリティあふれる人物たちの鋭い人物描写に、物語は熱気を帯びて、くっきりと私の脳裏には彼らが躍動する。(ちなみに、昭光は今よりも若くした坂上憲ニさんの顔だった。)
1951年生まれの桐野さんは、70年代安保の青春を生きたためか、格差や差別には敏感で、これまで女を描いてきたのもあらゆる意味で女が虐げられてきたからだそうだ。「割食う者」に心がひかれるという彼女によると、今の世の中で最も割食っているのが若者になる。「OUT」で初めて弁当工場の実体に衝撃を受けた私ですらも、本作品で「僕」が語る派遣労働者のリアルな働き方、働かされ方には、恐怖すら感じる。これまで経済誌などで、請負業や派遣労働者の実態を知識として蓄積していたのにも関わらず。それが、作家のストリーテラーとしての、また文学的才能のなせる筆力なのだろうか。「僕」の一人称ではじまる物語のすべりだしと、まるで実在の人物をそっくりそのまま切り取ってきたかのような彼らの会話は、読む者を単なる傍観者にはさせない。自分は「僕」であり、ばかな昭光にもなり、おひとよしのリンコにもなる。その一方で、バックパッカーとして沖縄や東南アジアにいつき、”貧貧援助”などの一次産業で安価な労働者として使い捨てられたりする人々の存在を、世の中に対する復讐ではないかと疑ってしまったりもする。ロハスな生き方もあり、とは思うのだが、最近盛んに映画館で予告している映画「サウスバウンド」を観ていると、物価の安価な地域でその日暮しに安住する人種は、無意識のうちに、日本という国や政治をあきらめて捨ててしまっていると危惧している。
小説家は世の中の無意識の種を拾って育てる仕事と言い切る桐野さんの言葉を借りると、悪の種こそ育てて見せられて、魅了されるのが人間の生きるエネルギーであり、業かもしれない。なーんとなれば、不条理な過去と現実、そしてあてのない未来におびえ立ちすくみ、絶望感に打ちひしがれながらも、再生していく「僕」にのせられた作家の暗い情熱に翻弄されるのも楽しい休日だ。
これこそ、「ズミズミ、上等」!
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メタボラ 桐野夏生
大雨降ったらこんなに涼しくなるとは具合悪くなりそうだ。
時間かかったけど桐野夏生さんの「メタボラ」読破したので感想とか書いてみます。
破壊されつくした僕たちは、“自分殺し”の旅に出る。なぜ“僕”の記憶は失われたのか?世界から搾取され、漂流するしかな
(国内航空券【チケットカフェ】社長のあれこれ 2010/09/23 10:04 PM)
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